山梨は「出入り自由な村」。志あるリーダーの多様な挑戦を応援したい。ーKEIPE株式会社 代表取締役 赤池侑馬

山梨は「出入り自由な村」。志あるリーダーの多様な挑戦を応援したい。|KEIPE株式会社 代表取締役 赤池侑馬さん

新しいチャレンジには、いつも孤独や不安がともなうもの。スタートアップ企業にとって、事業をおこなう場所や、周りの環境はとても重要ですよね。それらの中でもっとも大切なのが「そこで出会える人」ではないでしょうか?

特集「山梨で会いましょう」では、新たに山梨での事業展開をされる方を応援したい、興味がある、一緒に何かやってみたい、といった“スタートアップフレンドリー“な山梨県人を取材し、お話を聞いていきます。

第1回目となる本記事は、山梨県で障がい者の就労支援事業をはじめ、その枠を超えた多様な事業展開で実績をつくるKEIPE株式会社の代表取締役 赤池 侑馬さんにお話を聞いていきます。

誰もが活躍できる社会をつくるために、「カンパニー」から「コミュニティ」を目指す。

編集部

KEIPE株式会社(以下、KEIPE)は、どんな会社ですか?

赤池

はい。KEIPEの事業は、「働きづらさ×ローカルビジネス」がコンセプトです。なんらかの事情で働きづらさを抱える人が、ローカルビジネスに参加することで地域課題を解決するというのがメインで、従来は「支えられる側」とされてきた人たちが、地域を「支える側」に回って地域の皆さんに喜んでいただく仕事をするという目標をもっています。具体的には、障がい者就労支援事業の他に、農家の規格外品を扱う商社事業や、飲食店、古道具や古材を扱う店舗なども手がけています。

編集部

働きづらさを抱えつつも働きたいと思っている人たちに、地域の仕事をマッチングさせることで、彼らを間接的に支援するという構造なんですね。ローカルビジネスにこだわっていることには何か理由があるんですか?

赤池

僕自身はローカルビジネスに留まりたいと思ってるわけではないんです。ただ、地域に暮らす障がいのある人たちが、地域の人たちから見えるところで働くことで、この人たちがいるから街が良くなってるんだって知ってもらえるようにしたいんですよね。

編集部

なるほど。街の人に働きぶりを知ってもらうために、あえて距離の近いところでビジネスをやろうってことなんですね。

赤池

そうですね。僕には3つ上の兄がいるんですけど、16歳の時にバイクの事故で障がいを負って、働けない期間が長かったんです。そうすると家にも街にも居場所がなくて、精神的に荒れたり引きこもったりしてしまう。障がい者支援事業所も人目につかない作業所が多くて、社会との繋がりがほとんどないんです。だから、ローカルビジネスに関わることで社会との繋がりをつくって、彼らを街のヒーローにしたいって思ってます。

編集部

街のヒーロー!たしかに、街という舞台を構成する大切なメンバーとして機能できれば、誰もが誰かにとってのヒーローになり得ますね。現在KEIPEに所属されている方は何名ですか?

赤池

事業開発などを行う社員が50名くらいと、障がいがあって時短勤務をしている人が100名くらいです。障がいのある方については、一応種別で分けると、精神疾患、知的障害、身体障がい、難病等って分けられるんですけど、うちは精神疾患の方が6,7割くらい。専門的にいうと、統合失調症とかうつ病とか、いろんな病名が年々増えてますけど、僕はカルテみたいなの見たことないのであんまり詳しくはわかってないです(笑)

編集部

そうなんですか。専門的な知識が必要だったりするのかと。

赤池

もちろん専門知識のあるスタッフもいて、障がいに対応した合理的な配慮ってのは各現場でやってますが、基本的には専門知識があることよりも、その人が何をやりたいかのほうが重要だと思っています。障がいを考える時の一番の問題は、周りの人たちが「この人は障がい者だ」って思ってしまうことと、本人たちも「自分は障がいがある」ってとらわれてしまうこと。それによってお互いの間に断絶が生まれることだと思うんですよね。

編集部

障がいそのものではなく「障がいがあるんだ」という考え方が障がいになり得ると。

赤池

そう。だから、僕は彼らを助けようとかいう考えを一切もっていないですし、そうじゃなくて「仲間」なんです。一緒に仕事して価値を作っている仲間で、みんなが幸せに生きていくってことをすごく大事にしてます。

編集部

素敵ですね。一方で「思い込みをなくす」って、実はとても難しいことのような気もします。

赤池

うーん。僕自身もやっぱり無意識に思い込んでることとかバイアスはあって、特に東京のベンチャー企業にいた時は「とにかく成長しない奴には値打ちがない」とか思っていたし。そういう価値観で生きることは悪いことではないんですが、そんなに重要じゃない。僕がそれに最初に気づいたのは、タイで新規事業を立ち上げた時なんです。

編集部

タイですか!?

赤池

もう性別も年齢も全員ぐちゃぐちゃだし、雨降ったら休むし、時間通りという言葉もない(笑)。それなのにちゃんと事業はまわってるんですよね。

編集部

それはたしかに常識を覆されますね。そのなかでも持続可能なビジネスにしていくには、どうしたらいいんでしょう?

赤池

経営者なので経済合理性のもとで動かなきゃいけないこともあって、そことの葛藤はあります。ただ、もうそこは振り切るしかないのかなと。だから、僕はKEIPEを「カンパニーではなくコミュニティ」と言ってます。会社とは無限に成長しなきゃいけないもので、目標の数字を決めてそれを落とし込んで…という世の中の常識があると思うんですが、僕はわりとそれを疑っていて、いろんな価値観の事業があっていいと思うんです。その代わり、各自が当事者意識をもって数字を見られるようにして、それぞれの事業を持続可能にするにはどうしたらいいか?を考えられる組織にしたいと思っています。僕の役割はそのための人を育てる役割を担っているイメージですね。

編集部

なるほど。障がいのあるなしに関わらず、働きたい意欲のある人が多様な価値観のもとで働ける社会をつくる。そのための支援をするのがKEIPEという存在なんですね。

山梨は「出入り自由な村」。

編集部

お話を伺っていると、思い込みやバイアスを持たないことの重要性、それぞれが自走するための支援という点など、KEIPEの事業は山梨のようなローカルな地域での起業支援にも通じるところがありそうです。東京でも山梨でも、なんならタイでも起業された経験をお持ちの赤池さんから見て、山梨でスタートアップすることの特徴って何か感じますか?

赤池

すごくネットワークが密ってことですかね。僕は4年前に山梨に戻ってきた時は、会社を経営しているような知り合いは0人だったんです。それが、経営者1人に会ったら3人紹介してもらう、みたいなわらしべ長者的なお願いをしていったら、わりとすぐに銀行の上層部の方にもお会いできたり。応援してくれる先輩の存在を身近に感じられるのは心強いです。

編集部

そこは地方の中でも特に地理的に狭い山梨県ならではかもしれませんね。とはいえネットワークが狭いとなると、閉鎖性とかにも繋がりそうと思ってしまいますが、その点はいかがですか?

赤池

うーん、でも僕が関わらせていただいているような先輩方は「出入り自由な村」のような感じがします。

編集部

出入り自由な村ですか。

赤池

正直、僕も最初はちょっと怖いと思ってたんですよ。男同士の縦社会とか、いわゆる体育会のノリみたいなものがあるのかなとか(笑)。でも実際に来てみたら全然そんなことなかった。特にスタートアップ支援に関わってくださっているような皆さんは、フラットな方達だと思います。

編集部

赤池さんご自身は、具体的にこういう支援を受けてありがたかった!というものはありますか?

赤池

それはもう無限にあります。起業してすぐに、とりあえず地元の商工会に行ったんですが、そしたら当時あった創業者向けの研修制度を特別に受けさせてくれて、政策金融公庫まで繋いでくれた。さらに県の金融課の方、、さらに地元の銀行の方…と次々ご紹介していただいたおかげで、資金面でも本当に助けてもらいました。

編集部

それはありがたいですね。ネットワークが密というお話にも通じますが、もともと山梨には若い人を応援するというか、世話を焼いてくれる風土みたいなものがあるのかもしれないですね。

スタートアップの落とし穴にハマらないために。

編集部

逆に、こういう支援があったらよかったのに、とか、これからはこういう支援が必要になるんじゃないか、と感じることはありますか?

赤池

僕がすごく思うのは、やっぱり起業となると、投資に対するリターンを求める人達から、いかに資金を集められるかという活動は大きいと思うんですね。そうなると、どうしても本当に自分たちがやりたいと思ってた理念からぶれてきちゃうこともあるんです。創業時は、倫理的なこと、例えば多様な人たちを活用していくとか地域の環境について考えてみるみたいな時間ってあんまりとれなくて、野心家の人であればあるほど、ゲームの中でどう勝つかっていうことに夢中になってしまう。だから、起業家に対して、事業を成長させることだけじゃなく「人格形成」のサポートも必要だと思うんですよね。

編集部

人格形成ですか。たしかにスタートアップの落とし穴っていうか、いざ事業を前にお金を動かすとなると、数字とか目先の利益に囚われてしまうという話はよく聞きます。いかにそれぞれのリーダー達の倫理観を育てて、創業の理念を見失わないようにするか、ということですね。

赤池

僕らが経営ですごく思ってるのは、本当の意味で地域や社会を変えるには、ハードが変わってもあんまり効果がなくて、人々の認知を変えないといけないんです。世の中の多くの人達はどこかしら組織に所属していて、その組織はそこのリーダーが思想をつくってるんだとしたら、やっぱりリーダーが志や哲学をしっかりと持っていることとか、バイアスに気づくような環境をつくっているかどうかは重要なんじゃないかと。そういう抽象度の高い話を扱えるリーダーが増えていくと、そこで育つ社員の視座も変わっていくので、それが本当の意味で地域とか社会が変わっていくことになるんじゃないかと思ってます。

編集部

なるほど。リーダーのマインドが組織のメンバーを育て、さらには地域や社会を変えていくと。 KEIPEでも、社内からいろんなのローカルビジネスが生み出されていますが、赤池さんご自身はメンバーの皆さんに具体的にどのような支援をされているんですか?

赤池

あくまで僕らの社内での例ですけど、アカデミーみたいなものをつくろうと思っています。

編集部

アカデミーですか。

赤池

もともと野心家で上昇思考の高い人っていうのは、自分でどんどん起業していくと思うんですよね。でも、意外と心優しくてリスクは取れないけど、ちゃんとリーダーとしての資質はあるという人もいるじゃないですか。そういう人に、こちらが資金面でのリスクを取るのでどんどん創業してもらえるような仕組みをつくろうと思ってます。

編集部

たしかに、リーダーとしての素養がある方が、自分でリスクを取らなくてもチャレンジできる仕組みがあったら、いい事業や会社が生まれやすくなるかもしれません。特に地域にとっては、単に規模を大きくするよりも、本人の生き方とマッチした事業や本当にやりたいことをやっているか、のほうが大切なこともありますね。

赤池

そうなんです。なので、うちでは上司はマネージャーではなくコーチの役割をするようにしていて、社内のあちこちで1on1をやってもらってます。メンバーそれぞれの強みはなにか、やりたいことはなにかを引き出していくことで、その強みを社内で活かすには?社外で活かすには?を整理しながら考えてもらうようにしてます。

解像度が高く「人対人」で関わり合えるような人と世界観を広げたい

編集部

自分がやりたいことをやり、リーダー同士がお互いに支え合って自走するというのは理想的です。赤池さんとしては、特にこんなスタートアップが山梨での事業展開に向いているのでは?というイメージはありますか?

赤池

スタートアップが山梨で事業展開するって、東京に比べたらマーケット的な意味ではけして条件は良くないんです。それでもあえて山梨でやろうと考える人というのは、おそらく「課題の解像度」が高いんじゃないかと。飛び道具的なサービスで自分の会社だけ儲かればいいという考えではなく、課題に対してちゃんと「人対人」で関わり合えるような人。そういう人が来てくれるだろうと期待しています。

編集部

こんな事業があったらKEIPEでも連携したい、などはありますか?

赤池

僕としては、業種とかは何でもいいと思っています。それよりも、その人の存在自体がもっと山梨の世界観を広げてくれるような人。価値観が共有できて、一緒に僕らがやりたいことの価値を広げてくれるようなプレーヤーが入ってきてくれたら、僕らがやっている事業ももっと精緻になるんじゃないかと楽しみですね。