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山梨スタートアップ環境体感ツアー前編 – 山梨の現状を知る –

首都圏からのアクセスがよく、豊かな自然に恵まれ、多数の企業が進出する山梨県。同県は、スタートアップ向けのアクセラレーションプログラムや、実証実験サポート事業、全国初の行政によるスタートアップ出資事業など、スタートアップを支援するためのプログラム・事業を多数展開。2023年度にはスタートアップ・経営支援課を新設し、「地に足のついた支援」を目指して、スタートアップに寄り添い、伴走する手厚い支援を行なっている。

そうしたなか、同県は、シェアードワークプレイス「co-ba」を運営するバ・アンド・コー株式会社とともに、山梨県や全国のローカルで事業展開を検討しているスタートアップと支援者を対象に、山梨県の事業支援のスタンスや環境を感じてもらうことを目的とした「山梨スタートアップ環境体感ツアー」を開催した。

全国から注目を集める山梨県のスタートアップ環境

2月29日(木)朝9時15分。山梨市駅前に止まった貸切バスの前に、続々とツアー参加者が集まり始める。

山梨県内や首都圏からはもちろん、北は秋田、南は熊本と全国各地から集まった参加者たち。その属性も、スタートアップ企業のメンバー、大手企業のマーケティング担当、フリーランス、現役大学生など多岐にわたる。それだけ、山梨県という土地への期待の高さがうかがえる。

点呼を取り終わり、参加者全員がバスに乗り込んだところで、「山梨スタートアップ環境体感ツアー」は始まった。

“果樹王国”山梨県の実態

ツアー前半のテーマは「山梨県を知る」。

はじめに訪れたのは、山梨市駅からバスで約10分のところにある、山梨県果樹試験場(https://www.pref.yamanashi.jp/kajushiken/103_001.html )。

降水量が少なく日照時間が長い、そして日中と夜間の寒暖差がある、という果樹栽培に適した気象条件が揃う山梨県は、農産物の生産額のうち33%を果樹がしめる果樹王国だ。果樹の生産が増えたのは昭和40年代。他県に比べると農家一戸あたりの耕作面積が少ない山梨県の農家、その少ない面積で収益をあげるために、収益性の高い果樹に注目が集まった。昭和57年代の中央高速道路の開通も、東京への出荷がしやすくなったという意味で、果物の生産量増加に拍車をかけた。

そんな果樹栽培の盛んな山梨県の中で、果樹試験場は、果物の品種改良や開発、県内の農家が抱える高齢化・人手不足などの課題解決に向けた果樹の育成方法の研究、高品質安定生産を実現するための生産方法の研究などを行っている。

今回のツアーでは、桃とぶどうの農場の見学を行った。

資材に支えられ、Y字の形になった桃の木がずらりと並ぶ農場。こちらでは農業の省力化を目指した、新しい桃の栽培方法を研究している。

枝をY字に均等に並べることで、果実のつく位置をある程度予測できるようになるため、栽培作業をより簡単に行うことができる。果実のつく位置が予測できるということは、将来、果実の栽培をロボットに任せることができるようになるかもしれない。また、農薬の散布をドローンで行うのも簡単にできるようになるとのことで、さまざまな面での省力化が見込まれている。

続いて、ぶどう農場の見学。ぶどう棚を作り、ぶどうの樹が自然に成長するままにしておくのが、従来の山梨県のぶどう農場の仕立てだが、我々が見学した農場では、むかでのような形をしたぶどうの樹が均等に生え揃っていた。これは「短梢(たんしょう)剪定」と呼ばれる仕立てで、西日本では昔からこの栽培方法がとられている。

山梨で栽培されているぶどうの品種が短梢剪定に不向きだったため、長い間、山梨では短梢剪定が行われずにいた。しかし、近年では品種改良などが進み、ぶどうの品種も増えたため、果樹試験場ではどの品種のぶどうが短梢剪定に向いているのかを比較する実験をこの農場で行なっている。

このように、山梨県の農家の発展、課題解決のために日々研究を行なっている果樹試験場。2024年夏からは、同施設で開発された赤いシャインマスカット「サンシャインレッド」が出荷されるようになるとのことで、非常に楽しみだ。

甲州に根ざした伝統産業の抱える課題

広々とした敷地の果樹試験農場を見た後は、再びバスに乗り込み移動。移動中の車内ではツアー参加者の自己紹介タイムも。

自己紹介タイムを経て、全体の雰囲気が和らいだところで次の目的地に到着。訪れたのは、株式会社印傳屋(https://www.inden-ya.co.jp/)の工場。

鹿の皮をなめし、漆で模様付けした工芸品である甲州印伝。1987年に経済産業大臣指定伝統工芸品に認定された甲州印伝を江戸時代から作り続けているのが、今回訪れた株式会社印傳屋上原勇七だ。到着した我々を出迎えてくれたのは、印傳屋専務の上原伊三男氏。

印傳屋ではまず、その製造工程を知るべく工場の見学をさせていただいた。

工場では印伝を作り出す工程のうち、鹿革の焼き刷り工程と、模様付けを行う工程を見ることができる。まずは、鹿革の焼き刷り工程。熱したコテで鹿革をすることによって現れる、キメの粗い部分をブラインダーで削り、滑らかにしていく。

印伝に模様をつける技法は「漆技法」「燻(ふすべ)技法」「更紗技法」の3つの技法があり、同工場では「燻技法」「漆技法」の2種類を見学できる。

黒・赤・紺・紫・茶の5種に染め分けた鹿革の上に型紙を置き、木べらで掬い取った漆を押すようにして模様付けを行う漆技法。漆で模様付けを行ったあとは、室と呼ばれる部屋に革を移し、2日から1週間かけて乾燥させる。

木製の太鼓と呼ばれる筒に鹿革を貼り、さらにその上に糸を回しかけ、煙でいぶすことで着色を行う「燻技法」の起源は奈良時代。この「燻技法」を印傳屋では途絶えることなく現代まで伝承している。一度では十分に着色できないので、日数をかけて何回も何回も燻をかけていく。煙を通した革は茶褐色に染まるが、糸をかけた部分は煙が入り込まないため、鹿革本来の白い色が模様として残る。漆技法と異なり、煙りの色素のみで模様を表現するため、鹿革本来の柔らかさを残したまま模様付けできるのが燻技法の特徴である。

なかなか目にすることのない伝統工芸品つくりの様子を、ツアー参加者も熱心に覗き込んでいた。

工場見学を終え、甲州印伝に対する理解を深めた後は、ツアー参加者と上原氏のディスカッションタイム。

伝統を守りながらも新しいことに挑戦する姿勢を大切にしている印傳屋は、「GUCCI」などの海外ブランドとのコラボレーションに取り組むほか、2011年からは本格的に海外ビジネスを展開。その中で、若者や海外の人たちに対するPRをどのように進めていくかという点に課題を感じており、スタートアップや新しいことに取り組んでいる人たちからの新しい知見を得たい、という上原氏。

それに対し、ツアー参加者からは

・スマホケースなど、若者でも使いやすい商品を制作する。
・若者向けにこれまでよりも価格帯の低い商品を作る。
・漆を繰り返し使うなど、印伝の制作過程には無駄がないように見える。そういった部分を海外の人に受けのいい「もったいない」というキーワードも含めて発信するべき。
・日本の他の工芸品とのコラボレーションはできないものか。

などの意見や問いかけが投げかけられ、ディスカッションは予定の時間を超えて盛り上がった。

山梨県のものづくり産業を支える施設

「山梨を知る」前半の最後に訪れたのは、山梨県産業技術センター。

産業技術センターは、県内企業の生産活動における技術的課題の解決から、将来に向けた技術開発まで、山梨県のものづくり産業のさらなる活性化に寄与することをミッションとし、県内企業に向けて様々な支援を行っている。支援の柱は、技術支援・研究開発・人材育成・情報提供・事業化支援の5つ。

今回のツアーでは産業技術センターが所有している機器のうち、社内や生産現場のDX化支援のために同センターが開発したDX実証機器、食品の味を数値化する味認識装置、3Dプリンターを見てまわった。

産業技術センターでは2019年から2021年にかけて、生産現場のIoT化、DX化を推進するための研究開発を行なってきた。今回ご紹介いただいたのは、産業技術センターに設置された4台の工作機器の稼働状況を見える化するためのシステム。このシステムを利用することで、既存の設備の生産状況を共有・監視したり、異常が発生した場合は管理者に通知を行うことができる。県内企業40社がすでにこのシステムによる支援を受けている。

大手メーカーでも使われているという味覚センサー。食品の中にセンサーを浸けると、酸味や甘味などの強さを数値化してくれる機器。センサーの価格が高く、貸出の際にはセンサーをどのように扱うかによって使用料が大きく変わってくる。そのため、機器を利用する際の事前相談も、産業技術センターにて行っている。

機器の使い方に関しては無料でレクチャーを受けることができる。自社で試験を行うのが難しい場合は、機器を借りるのではなく、試験そのものを産業技術センターに依頼することも可能(試験依頼を行う際は、担当科への事前相談必須)

続いてご紹介いただいたのは、3Dデータをもとに樹脂の立体モデルを作成できる3Dプリンター。設計したデータをもとに、直に手に取れる模型を作れるのが3Dプリンターのメリットであり、新しい製品や部品の製作を行う際に、3Dプリンターを使って試作品を作る企業も少なくはない。産業技術センターに置いてある3Dプリンターは、色付きのモデルの作成ができる他、作成に使う樹脂の種類を選ぶことで試作するものの硬さも調整が可能な高性能な機器。こちらも産業技術センターの開放設備なので、予約・申請を行った上で利用することができる。申請時に3Dデータの提出が必要になるので、事前に準備しておくことをお忘れなく。

山梨の果樹栽培を支える果樹試験農場、山梨で古くからつくられてきた伝統技法を守る印傳屋、山梨のものづくり企業の発展を目指す産業支援センターをめぐり、それぞれの産業の現状や課題について学んだツアー前半はここで終了。

バスの中でお弁当を食べながら、「山梨県のスタートアップ支援策について知り、それを使って活動する企業を知る」後半戦へと向かった。

ツアー後半の様子はこちらからご覧ください。

山梨スタートアップ環境体感ツアー後編 – 山梨で活動する企業について知る –

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