山梨スタートアップ環境体感ツアー後編 – 山梨で活動する企業について知る –
スタートアップ企業の誘致に向け、さまざまな施策に取り組む山梨県。その事業支援のスタンスや環境を感じてもらうことを目的とし、シェアードワークプレイス「co-ba」を運営するバ・アンド・コー株式会社とともに開催した「山梨スタートアップ環境体感ツアー」。
ツアーの後半では、実際に山梨県の支援を受けて活動している企業やスタートアップとの連携を模索する地元企業を訪問。各企業の代表から話を伺うとともに、その取り組みを体感した。
ツアー前半の様子はこちらからご覧ください。
山梨県を実証実験の聖地に
山梨県が実施するスタートアップ支援事業の大きな柱の一つに「TRY YAMANASHI! 実証実験サポート事業」( https://www.pref.yamanashi.jp/try_yamanashi/support.html )がある。
近い将来、リニア中央新幹線が開通すれば、東京から25分、名古屋からは45分で訪れることのできる山梨県。そのインパクトを最大限に取り込むべく、2020年3月に策定された「リニアやまなしビジョン」の中では、地域特性を活かし、県全域をテストベッドのフィールドとする方針が打ち出された。それを実現すべく始まったのが「TRY! YAMANASHI! 実証実験サポート事業」だ。
「山梨県全域を対象にした伴走支援」、「専門家によるアドバイス」、「最大750万円の経費支援」、という3つのサポートがメインに行われる「TRY! YAMANASHI! 実証実験サポート事業」は2021年度にスタートし、すでに第5期まで活動が終了している。
そんな「TRY! YAMANASHI! 実証実験サポート事業」の第2期に採択され、山梨県北杜市にて実証実験を行ったINNFRA株式会社(採択当時の社名は「U3イノベーションズ」)の川島 壮史氏のお話をうかがうべく、同社の実証施設「オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳」を訪れた。
ウッドデッキの上に「インスタントハウス」と呼ばれる白いテント状の建物を5棟、それに加え屋根にソーラーパネルを設置したカーポートが2棟。INNFRA株式会社が運営しているオフグリッド施設の構成だ。
オフグリッドとは、電気や水の供給を既存のインフラに頼らず、自給自足して生活すること。完全に自給自足で生活をする上では、居住者がエネルギーや水の供給量と需給量を常時把握し、必要に応じて節電などを行う、設備の方で自動制御などを行うなどして、供給不足を回避することが欠かせない。
そこでINNFRA株式会社は、オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳にエネルギーと水に関するリアルタイムデータを計測するセンサーを設置し、そのデータをインターネットを介して確認できるシステムを構築。そのシステムの運用確認と、各種データの蓄積のため、2022年3月から実証実験を行なっている。
「TRY! YAMANASHI!」の採択を受けた縁から、2022年の夏には県との共催でメディア見学会を開催。川島氏の考える新しいインフラの在り方を発信したことで新しい繋がりも増え、実験から社会実装へと意識を切り替えた。現在は、無印良品の家を手がける株式会社MUJI HOUSEと共同で完全オフグリッドのトレーラーハウスを商品開発し、2024年内を目標に販売を開始する予定だ。
地方では人口減少とともに、従来の大型インフラ施設の維持が難しくなっている。その社会課題解決のためにはインフラそのものが変わっていく必要がある、と川島氏は語った。
スピード感のあるやりとりと、「地に足のついた」手厚い支援
川島氏の話をうかがった後は、一路、甲府駅へ。続いてお話をうかがうのは、「TRY! YAMANASHI!実証実験サポート事業」の第4期に採択された株式会社マリスcreative design(https://maris-inc.co.jp/)。
「技術で世界中の人々の生活を豊かにする」というビジョンを掲げ、福祉機器の企画・開発から販売までを行っている株式会社マリスcreative designは、山梨県のサポートを受け、2024年9月に甲府駅周辺で、同社が開発した視覚障がい者のための歩行アシストAIカメラ「seeker」の実証実験を行った。
「seeker」はメガネ型の装置に取り付けたカメラとセンサーで取り込んだ情報をAIを使って処理し、危険な状況を察知すると使用者に振動で知らせるプロダクト。実証実験では11名の視覚障がい者の方に「seeker」を装着していただき、横断歩行を渡ってもらった。
実証実験を行うにあたり、東京の拠点での開発に追われていた和田氏に代わり、場所の選定を行なったのは山梨県庁の職員。それ以外にも、実証実験の協力者を募るための山梨県福祉協議会との連携、プレスリリースの発信、実証実験当日のフォローなど、県庁職員の手厚いサポートとスピード感のあるやりとりには大いに助けられたと語った和田氏。山梨県で2023年末から始まった資金調達サポート事業からの出資も決まり、今後は山梨にも開発拠点を置いて実証実験を続けていくことを考えているそうだ。
地元企業とスタートアップのオープンイノベーションを目指して
県内外のスタートアップと現地企業との共創による、経済活動の活発化を目指す山梨県は2023年にオープンイノベーションプログラム「STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM 2023」を実施している。
こちらのプログラムは、ホスト企業として山梨県内の4つの企業が参画し、それぞれ解決したいテーマを策定、それに対して全国のスタートアップから共創アイディアを募るというもの。実際に採択されたスタートアップは、山梨県の伴走支援を受け、ホスト企業の協力のもと実証実験などを進めていく。
ツアー最後のプログラムは、山梨県庁1階のカフェ「オープンカフェまるごとやまなし館」で行われた。お話をうかがったのは、同カフェを運営する株式会社アルプスの代表取締役社長 金丸 滋氏(https://www.alps-hs.co.jp/)。
株式会社アルプスは、外食・小売店舗や高速道路PAの運営、公共施設の管理運営などを行う総合サービス企業で、「STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM 2023」のホスト企業の1社でもある。
常に新しいことにチャレンジしたいという思いのもと、2022年頃から様々なスタートアップとの実証実験の取り組みを行っているアルプスが、「STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM 2023」で掲げた募集テーマは「飲食店における省人化・無人化に向けた共創」だ。飲食店が抱える人手不足という課題を解決するためには、省人化・無人化が不可欠だと金丸氏は考えている。
「オープンカフェまるごとやまなし館」では現在、「STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM 2023」で採択されたアイデアの実証実験が行われている真っ最中。東京に本社を構えるTECHMAGIC株式会社が開発した、炒め調理ロボット「I-Robo」が店内に置かれ、カフェを訪れた人が自由に使用できるようになっている。使い方は非常に簡単で、「I-Robo」の画面に出てくる指示に従って材料や調味料を投入するだけ。
ツアー参加者も「I-Robo」で野菜炒めと焼きそばを作ってみたのだが、野菜を炒めるときの音や香りは、普段人間が調理している時のものと変わらず、完成した料理に対しては「美味しい!」という歓声が上がっていた。
ツアー全行程が終わった後も、参加者同士での交流は続いた。
ツアー終了後、参加者からは下記のような声が寄せられた。
「県の方向性と熱意と立ち位置がベストだと、こんなに民間が輝けるのかと発見ができた。」
「山梨県の自然や文化を生かしたスタートアップの多様性に感銘を受けました。特に、地域資源を活用した事業展開の可能性を強く感じ、私自身も山梨でのアートと自然を融合させたヘルスケア関連のプロジェクトを考え始めました。」
「領域の定めに縛られず多くのことを横断的に見学できたたため、視野が広がり、新たな視点や考え方を獲得することができた。」
「実際に現場現地に立つことの重要性を感じた」
実際にいろいろな方のお話をうかがって特に強く感じたのは、山梨県の熱意だ。『地に足のついた支援を』をという言葉を今回のツアーの中で何回か耳にしたが、まさに地に足をつけた手厚い伴走支援を行なってくれるのが山梨県、という印象を強く持った。
それはツアー参加者にもしっかりと伝わり、山梨県の魅力とその取り組みについて、改めて関心を持ってもらえたのではないだろうか。
山梨の新しいスタートアップ拠点
今回ツアーを開催した山梨県では、新たなスタートアップ支援の拠点開設に取り組んでいる。オフィスとして活用できる個室フロアや、コワーキングスペース、会議室はもちろん、利用者同士の交流を促すオープンスペースに、DIYスペース、撮影スペースなどを設ける予定。
2025年オープン予定の新しい施設から、どんな事業成長や連携が生まれていくのか、今から楽しみである。
2024年は新しい施設に向けてコミュニティをつくっていく予定です。興味がある方は下記までご連絡ください。
startup@pref.yamanashi.lg.jp
ツアー前半の様子はこちらからご覧ください。